(1)事業の概要
滋賀県東近江市奥永寺地域では、600年の歴史を持つ政所茶が栽培されている。しかし、近年、政所茶工場の採算性が確保できず存続の危機に陥っている。そこで私たちは、政所茶茶工場の採算性を高めるために、茶工場のボイラーの熱を利用した新規事業として、ドライフード事業の提案を行った。そして、この事業の実現可能性を高めるためにヒアリングや試作を行った。
(2)事業実施に至る経緯と背景
茶工場の採算性を確保するため、ボイラーの熱を活用したうなぎやエビの養殖事業を政所茶生産振興会に提案を行った。しかしこれらの提案は、地域の文化や生産振興会のニーズを汲み取れておらず、受け入れられなかった。私たちは生産振興会と意思疎通を図るために定例会議を繰り返す中で、規格外商品の実態を知った。さらに詳しく調査すると、規格外商品を活かした事業は上記の問題点を克服できることが 明らかになったため、事業の実現可能性を高めるべく試作を行った。
(3)事業実施項目
(1) 定例会議
月に1度開かれ、政所茶生産振興会と私たち龍谷大学生が議論できる貴重な場であった。この会議では主に政所茶の存続についての情報共有や、議論を行っていた。実際に私たちは、うなぎやエビ養殖、ドライフルーツなどの事業提案を行なってきた。この場を通して、ドライフルーツ事業の提案が受け入れられた。
(2) エーゼロ株式会社へのヒアリング
うなぎ事業の実現可能性を高めるため、エーゼロ株式会社にヒアリングを行なった。エーゼロ株式会社は、ボイラーを活用してうなぎ養殖事業を行なっている企業である。このボイラーを活用した先行事例を参考に奥永源寺地域でもうなぎ養殖事業が可能であると分かった。
(3) 株式会社ドローフーズへのヒアリング
エビ養殖事業の実現可能性を高めるため、株式会社ドローフーズにヒアリングを行なった。株式会社ドローフーズは、小規模でエビ養殖を行なっている企業である。私たちはこのヒアリングを通して、比較的初期投資が少なく、容易であることを知った。奥永源寺地域でも実現可能であることが分かった。
(4) 株式会社湯治へのヒアリング
ドライフルーツ事業の実現可能性をより高めるため、zoomを通して株式会社湯治にヒアリングを行った。実際に株式会社湯治は、温泉熱を利用してドライフルーツ事業を行なっている。これは、ボイラーを活用したドライフルーツ事業を行う上で参考となる。例えば、フルーツを乾燥させる際の環境や温度、室温調整の方法などである。これらを参考にし、ドライフルーツ事業の実現可能性をより高めた。
(5) 梨農家へのヒアリング
政所定例会議で紹介して頂いた菜の花館の財満さんを通じて梨農家にヒアリングを行った。そこで梨の規格外商品の実態について知り、実際に発生した規格外商品の梨を頂いた。
(6) ドライフルーツの試作
財満さんとyamagoyaの東堂さんと共に、頂いた梨と市販の果物を用いてドライフルーツの試作を行なった。yamagoyaの東堂さんは、ドライフルーツを作り販売されている方である。東堂さんにご指導して頂きながらドライフルーツと政所茶を用いたグラノーラの試作を行った。
(4)事業の成果
- 株式会社湯治へのヒアリングやドライフードの試作から、うなぎやエビの養殖事業に比べて専門的な知識を必要とせず高齢者の負担が少ない作業工程が簡単であることが明らかになった。また大規模な施設を導入することなく既存のスペースを活用できることがわかった。よって実際に政所茶の生産に加えて導入する新規事業としてドライフードが適しているということが証明できた。
- 愛東地区で年間4,319kg出ている梨の規格外商品をすべてドライフードの商品として加工・販売すると、約 7,000万円の売上が見込まれることがわかった。よってドライフード事業は茶工場の採算性を高められることが証明できた。
- 政所茶生産振興会に向けていくつか新規事業の提案を行った中で、景観・初期費用・事業の難易度の観点から、地域の意向に沿っていたためドライフード事業を導入することで合意形成に成功した。
- 活動において愛東地区の梨農家、NPO法人愛のまちエコ倶楽部、yamagoyaと関わり、今まで政所地区で抱えていた課題を共有し、他地域に政所茶のステークホルダーを形成した。
(5)課題と今後の展望
今回の試作の課題は、地元の規格外商品を用いることができなかったことである。事業のコンセプトとしては、地域課題と地域課題を掛け合わせた新規事業である。そのため地域課題の規格外商品を用いることが必要となるが、規格外商品は農家さん単位で廃棄されているため収集ができなかった。そのため、今回の試作で実際に規格外商品を用いることができたのは梨のみであり、多くの材料をスーパーで購入する形となった。今後、コンセプト通り事業を行うためには農家さんと関係を築き規格外商品を得られるルートを開拓する必要がある。また、試作を行うと比較的容易に生産することが可能であるため、他社との差別化を図っていく必要がある。そのためにも、地域課題を掛け合わせた商品ということで付加価値を生み出し、販売していく必要がある。
(6)事業実施を通じて見出された特長
ポイント 1 「 地域の方との仲を深め、信頼関係を築く 」
ポイント 2 「 積極的にヒアリングや視察を行い、専門的知見を得る 」
ポイント 3 「 オンラインを活用する 」
活動団体情報
代表者
政所プロジェクト
谷 益伸
連絡先
REC事務部(京都)
主な連携メンバー
政所茶生産振興会、一般社団法人徳島地域エネルギー
活動開始時期
2019年12月
主な活動地域
滋賀県東近江市政所町