ベジプロジェクト(2021年度「龍谷チャレンジ」採択事業)

(1)事業の概要

1つ目は就労継続支援B型事業所で働く利用者の工賃向上を目的とした事業である。月額平均工賃を引き上げるため、「工業と福祉の連携」である工福連携を取り入れる。社会福祉法人南山城学園に人共存型スカラロボットの導入を進めている。
2つ目は、ほとんど廃棄される鹿に付加価値を付け、鹿革を用いた商品開発を行っている。笠置町の高齢者でも作ることができる商品を生み出し、働きづらさを抱える人たちにシゴトを生むことや活性化を目指している。

(2)事業実施に至る経緯と背景

就労継続支援B型事業所で働く利用者の工賃は、現在の最低平均工賃を大きく下回っている。利用者は労働者としてみなされておらず、最低賃金が保証されていない。これらの問題から工福連携PJではディーセントワークの実現に向けて研究を行おうと思った。
一方笠置PJでは地域に着目し、地域の人々が活躍できる機会を創出すべきだと考えた。笠置町では年々過疎化が進んでおり、雇用の機会が失われている。このような人の雇用環境の整備や地域活性化に取り組む活動が必要だと考えた。

(3)事業実施項目

(1)商品企画書の作成、商品開発

キッチンカーで販売する商品のアイデアを出し、商品のコンセプトや訴求ポイント、原価や売り上げ目標などの項目を設けた商品企画書を作成した。販売メニュー確定後は、特に、株式会社全笑で働く障がい者が生産している野菜の付加価値を向上させるための工夫や細かなレシピの調整などの試作を何度も積み重ねた。

(2)キッチンカーの運営に関する準備

キッチンカーを運営するにあたって、キッチンカーの手配、大学への許可申請、保健所への申請、食材の発注・管理を行った。また、食品衛生責任者の資格を取得し、キッチンカー運営において重要な衛生面の管理徹底を行った。加えて、作業マニュアルの作成や運営のロールプレイングを行い営業日に備えた準備を徹底した。

(3)キッチンカーの運営

7月上旬に大学構内でキッチンカーの運営を行った。また、SNSを活用した広報活動や障がい者雇用の低工賃問題に関する資料を作成・掲示することで、多くの人に障がい者雇用における低工賃問題を知ってもらうきっかけを作った。

工福連携班

(1) カード化の作成

川崎重工業株式会社の製品である人共存型スカラロボット「duAro2」の動作を細分化した上で、duAroができる作業、できない作業、利用者が得意な作業をカード化した。その結果、duAroができない作業は、利用者が得意とするレベルの単純作業が主であり、反対に、利用者が苦手な作業はduAroが得意とする複雑な作業が主であることが浮かび上がり、互いに苦手な作業を得意とする相互補完の関係であることが分かった。

(2) ワークショップの開催

工福連携モデルには安全面と技術面の2つの懸念点があり、これらについてロボットSIer・福祉職員とワークショップを行った。安全面に関しては、duAroはアーム部分に柔らかな表面素材を使っている他、万が一動作中にぶつかっても衝突を検知して停止するセンサーが搭載されており、安全面に配慮されている。技術面に関しては、福祉事業所と中小企業が協働する際のノウハウを持っていないことが懸念されるが、これもカード化によって解消できることが分かった。

(3) ヒアリングの調査の実施

B型事業所の工賃は二極化傾向にあり、その要因を探るため、月額平均工賃が5万円代の事業所Aと1万円代の事業所Bの比較研究を行った。高工賃を達成している事業所Aは株式会社が運営しているため、利用者の能力に応じた仕事の割り振りをしており、生産性の高い利用者から順に仕事をこなしてもらうことで高い工賃を実現している。しかし、障害の重い利用者に対しては配慮が行き届いておらず、低工賃状態が続いており、事業所内でも二極化が起こっていることが分かった。また、工賃の引き上げが最優先に考えられているため、やりたいことが尊重されないという意見も利用者から挙げられた。
それに対し、1万円代の事業所Bでは、職員が出来るだけ利用者の特性や、やりがいを最優先に考え、希望に沿った仕事を割り振っている。その甲斐もあり、自信の作業の意義を理解し、私たちに説明してくれる利用者もいた。しかし、そんな中でも利用者からは、最低賃金が保証されているA型事業所に移りたいなど、工賃の向上を希望する声が多く挙げられていた。

(4) ロボットスクールでの研修

就労継続支援B型事業所に「duAro2」を導入するにあたって、細かい設定やエラーなどの修正をロボットSIerであるJOHNAN株式会社に委託するつもりだが、小さなエラーなどで毎回呼ぶよりも自分たちでも解決できるようになるため、工福連携PJで川崎重工業株式会社西神戸工場でロボットスクールに参加し、労働安全衛生法産業用ロボット特別教育(教示)という資格を取得した。

笠置班

(1) 笠置町の実態調査

活動拠点についての知識を深めるため、笠置町の人口や高齢化率や既に行われている取り組みなどについて調査した。調査方法としてはインターネットを活用したり、現地へ実際に行きヒアリングを行った。

(2) 商品開発

3つのチームに分かれ、それぞれ独自の発想により商品開発を行った。内容としては、ベビー用のお尻ふきケース、めがねケース、スリッパである。これらの商品を株式会社Re-Socialにプレゼンテーションを行った。

(3)商品販売の実施

ベビー用のお尻ふきケース、めがねケース、スリッパの3商品に加え、製作の段階で発生した端材を活かしたコースターも作成。完成した商品は、2月18日に京都の豊国神社で開催されたフリーマーケットで販売を行った。

(4)事業の成果

ベジプロジェクト

  • 農場で働かれている障害者の方々の労働力を分析したことを活かし、特に活発に動くことのできる利用者が高工賃で働ける環境を提供すべく、キッチンカー事業を開始した。キッチンカー事業では、利用者の工賃が2万5000円向上する見込みが立つモデルが完成し、試用販売の後、株式会社全笑に引き渡した。

工福連携班

  • ロボットの導入を進めることにより、障害者の作業だけでは製造が難しかった「見守り型火災報知器」の製造が可能になる見込みが立ち、それを導入してもらえる自治体も見つかった。見守り型火災報知器は、相場から約10000円で月に75個以上売れることが想定でき、コストを踏まえ、試算を行うと、南山城学園の利用者、5名の月額工賃を1万5千円から10万円まで引き上げることができる資産が立った。
  • 福祉職員の方々も、本事業により、「現状が大きく転換し、福祉の世界が変わりつつあることに、大きな希望と期待を抱き、高いモチベーションを持って活動できるようになった」といったお言葉をいただけるようになった。

笠置班

  • 獣害である鹿を利活用した新たな手段を生み出すことができ、少なからず鹿革の廃棄量を減らすことにつなげている。
  • 株式会社RE-SOCIALに対して、学生目線での鹿革を利活用した商品開発の提案を行うことで、鹿を用いた商品の新たな可能性を見出した。

(5)課題と今後の展望

ベジプロジェクト

今回の事業での課題は、労働量の高い利用者にしかアプローチすることが出来ず、一見平均工賃が上がっていたとしても、結果的に工賃の二極化を産むことになった点である。
今後は、本質的な課題解決になるような、底上げの仕組みづくりを考えていきたい。

工福連携班

今回の事業での課題は、事業所間・事業所内の双方で二極化傾向が見受けられ、やり方を大きく変えなければディーセントワークの実現は不可能であること。
今後は工賃を底上げできる本事業モデルを確立させ、他の事業所にも導入していくことで、福祉業界にイノベーションを起こしていく必要がある。

笠置班

今回の事業での課題は、2つ挙げられる。1つ目は、商品制作に関する知識不足である。知識が不足しているが故、商品を制作することは容易ではなく、技術が必要であることが分かった。2つ目は、鹿革の取り扱いである。柔らかくしなやかであるという特徴を持つ一方で、それがかえって商品制作時には扱いが難しいという課題となった。これらは、働きづらさを抱える笠置町の方々にとっても課題となることが考えられる。
今後は、課題を踏まえ、働きづらさを抱える笠置町の方々が作りやすい制作工程を考える。また、働きづらさを抱える笠置町の方々のやりがいにつなげるためにも、開発した商品の販売にも力を入れていく。

(6)事業実施を通じて見出された特長

ポイント1「知識の不足は、関係団体と信頼関係を結んで最前線の人と関わる中で学ぶことが必要」
ポイント2「関係団体のビジネスモデルを客観視して、先入観に囚われないアイデアを生むことを心がける」
ポイント3「異なる複数の事業を掛け合わせる際は、双方に食い違いが生じないようにコミュニケーションを取ることが必要」

活動団体情報

代表者
ベジプロジェクト
藤田 悠斗

連絡先
REC事務部(京都)

主な連携メンバー
株式会社 全笑、株式会社ALAN、19‘sBakery

活動開始時期
2021年4月

主な活動地域
日吉ファーム、龍谷大学など