工福連携プロジェクト(2022年度龍谷チャレンジ採択事業)

(1)事業の概要

就労系障害福祉サービスの一種である「就労継続支援B型」では、一般企業への雇用や、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労機会の提供および生産活動の機会の提供を行っている。しかし、現在の就労継続支援B型の全国月額平均工賃は15,776円である。時給に換算すると222円になり、最低賃金の全国平均である930円を大きく下回っている。この現状を改善するため、就労継続支援B型事業所にロボットを導入し、高付加価値製品の創造を通じた工賃向上を目指す。

(2)事業実施に至る経緯と背景

ディーセント・ワークを実現するための制度のひとつとして、就労系障害福祉サービスがある。そのうち、通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である方に対して、就労機会の提供を行うのが、就労継続支援B型である。しかし、就労継続支援B型を利用して働く利用者の工賃は、現在の最低賃金を大きく下回っており、ディーセント・ワークの実現に寄与できているとは言い難い。このような現状を改善し、十分な工賃が保障される仕組みを構築する必要がある。

(3)事業実施項目

  1. 事業所の実態調査
    就労継続支援B型事業所を取り巻く福祉の実態を調査するため、先行研究の概観および、いくつかのヒアリング調査を行った。石川県金沢市にあり、飲食店の形態をとっているB型事業所へのヒアリング調査では、①専門外の知識と専門知の組み合わせ、②従来の事業所とは異なる店舗構造、③利用者の個性や得意不得意に合わせた業務の割り振りを行うことで、高い月額平均工賃を達成していることが明らかになった。
  2. 高付加価値製品の創造
    提携先である福祉施設の南山城学園において、人共存型ロボットのduAro2を導入し、高付加価値製品の製造を開始した。今年度は、水位計や火災報知器等に用いる基盤実装のみを試験的に行っているが、来年度以降は水位計や火災報知器自体も作成し、販売する。私たちは、実際に利用者の方々とともに作業を体験し、どういった作業工程で行えばよりスムーズな製造ラインが確保できるかという点について考案を行った。
  3. コミュニケーションツールであるカードの作成
    「就労継続支援B型を利用する人々は、どういった作業が得意なのか」ということが仕事を発注する企業や自治体側に認知されていないため、企業がB型事業所や利用者に対しての仕事を発注しないという悪循環が生じており、この点を解決する必要があると考えた。それに対し、企業とB型事業所や利用者を繋ぐコミュニケーションツールとして、カードの作成を提案した。
  4. 工福連携モデルの提案
    実際に、金属加工業を主としている企業の方に対して、本プロジェクトの概要説明と工福連携モデルの提案を行った。法定雇用率の観点や、完全な機械化にかかるコストが高く、部分的な機械化を行いたいといった需要があることから、工福連携モデルの需要が確認できた。

(4)事業の成果

  • 南山城学園にduAro2が導入され、試験的に運用が行われている。試験的に行っている作業としては、電子基盤の作成を行なっており、利用者が電子基盤の部品を基盤に並べる実装を、duAro2がはんだ付けをそれぞれ担っている。まだ試験段階であるため、工賃の向上に直接的に寄与している訳ではないが、すでに受注が400個あるため、本格的な始動後の試算としては、利用者が作成したセンサー基盤を2万円で400個販売し、総売上高は800万円になる。ロボットの導入費や原価等を差し引くと、276万円が残り、これが利用者の工賃となる。この場合、2.3人の利用者が目標である月額工賃10万円を達成することができる。
  • 試験的に働いていただいている利用者の方からは、「作業が楽しい」「役に立つものを作れて嬉しい」というお言葉をいただいており、働きがいにも良い影響を与えていると考えられる。
  • 株式会社エージェンシーアシストへのヒアリング調査より、「非常に興味深い、工業の会社にとってもロボットを導入したい会社や法定雇用率を満たしたい会社などに需要があるのではないか」というお言葉を頂き、障がいがある方は何も出来ないという固定観念を取り除くことができた。
  • 固定観念を取り除くことで南山城学園の職員の方が対等に仕事のお話をすることができるようになった。
  • 南山城学園が工福連携プロジェクトの活動を社内で行われている最先端な活動として取り上げ、企業PRとして大々的に取り上げている。

(5)課題と今後の展望

工福連携モデルの仕組みを確立させ、実際にロボットの導入を行い、試験的に動き始めた段階にあるが、現在水位計や火災報知器のセンサーとして使われる基板実装のみ行っている状態である。そのため、作成したセンサーの基盤を活用した製品の考案や、基板実装以外にも、人とロボットが組み合わさることによって出来ることを模索し、需要を生み出す必要がある。
上記のような、福祉と工業を掛け合わせることで出来ることを増やし、新たなモデルケースとして確立させることで、B型事業所の更なる工賃向上や、障がい者への固定観念を取り払うための企業を対象とした工福連携モデルの認知向上を図る。そして、B型事業所の工賃向上と障がい者の雇用促進に寄与していきたい。

(6)事業実施を通じて見出された特長

ポイント1「事業内容の可視化」
ポイント2「専門外の知識を増やし、新たな領域と連携」
ポイント3「学生の視点からの発想」

活動団体情報

代表者
工福連携プロジェクト
山中 ちひろ

連絡先
REC事務部(京都)

主な連携メンバー
社会福祉法人 南山城学園、株式会社 川崎重工、株式会社 JOHNAN

活動開始時期
2021年7月

主な活動地域
社会福祉法人 南山城学園