(1)事業の概要
本事業は、「アップサイクルが環境問題に貢献する手段として当たり前の社会」の実現を目指し、リサイクルされずに処分される資源への関心をつくること、新たな価値を見出しながら資源の自己循環と人と人のつながりを促すことを目的に展開した。昨年度の成果を踏まえ、主にアクリル資源を活用しつつ、新たなプロダクトの開発、マーケティング戦略の策定、ワークショップイベントの出店など、多面的な活動を実施した。
(2)事業実施に至る経緯と背景
本事業は、昨年度の「#ツナガルアクリルプロジェクト」の成果を踏まえ実施したものである。同プロジェクトは、コロナ収束時に大量に余ったアクリルパーテーションを、人間の都合で廃棄することへの違和感から発足したものであり、アクリル素材を活用したプロダクトの開発やワークショップの試行を行ってきた。一年を通して、人と人のつながりやコミュニケーションが社会課題解決に繋がる可能性を実感した。しかしながら、「アップサイクル」の認知度は依然として低く、関心はあっても実際の取り組みに踏み込めていない人が多い現状を踏まえ、さらなる社会への訴求を目指して本事業を実施するに至った。
(3)事業実施項目
(1) 製品開発と普及活動
- 昨年度「#ツナガルアクリルプロジェクト」において開発したオリジナル商品「Re:coryl」をキット版としてリデザインし、改良開発を実施。「Re:coryl」はアクリル素材の間にNFCタグを挟むことで、SNSや音楽など自分の好きな情報を入れ込むことができるストラップである。材料であるアクリル素材やNFCタグ、ストラップを素材のままパッケージ化することで、顧客が自身でアップサイクルの工程を体験可能な仕様に変更。
- ディンプルアート絵の具を使用したアクリルチャームのワークショップを企画。ディンプルアート絵の具は車のフロントガラスをアップサイクルした画具であり、その透き通った発色がアクリル素材と相性が良く、また昨年度から使用していた「ゆび絵の具」と比較しても乾燥時間が短縮され、満足度の高いワークショップが実現。
- 各種イベントおよびワークショップで「Re:coryl」キットやディンプルアート絵の具を活用し、多数の参加者により高いクオリティのサービスを提供するとともに、アップサイクルの社会的意義について周知活動を行う。
(2) 学内イベントでの活動
- 龍谷大学校友会主催イベントにおいて、校友会員を対象に「Re:coryl」の製品プロモーションおよびワークショップを実施。
- 大宮キャンパスのオープンキャンパスにて特設ブースを設置。「Re:coryl」キットを活用した体験型ワークショップを実施し、参加者への啓発活動を行う。
- 龍谷祭にて展示企画とクイズラリーを企画。また、アクリルチャーム作成ワークショップを同時開催し、気軽にアップサイクルを体験できる環境を整備。
- RYUKOKU Market Placeに出店。本学の他ゼミによる活動成果物と共に「Re:coryl」を販売。多くの学生に商品を手に取っていただく機会となった。
(3) 地域イベントやフリーマーケットへの参加
- 大光寺主催の「耳マルシェ」、深草商店街の土曜朝市、JAM MARKETなど、地域イベントやフリーマーケットに積極的に出店。ディンプルアート絵の具を活用したワークショップを実施し、「Re:coryl」既製品の販売も並行して行う。実際の場を通じて学んだ知見を以降の活動にフィードバックしながら改良を重ねる。
(4) 教育機関との協働
- 岐阜聖徳学園高校、日星高校の探究授業において、アップサイクル体験プログラムを提供。高校生自身が回収したアクリル板を使用し、本学瀬田キャンパスのSteamコモンズにてアクリルスタンドや看板を制作。
- 岐阜聖徳学園高校にて開催された「夏季学校 in 授業改革フェスタ」において、出前授業を実施。来場された中学生や保護者を対象に、アップサイクルに関する講義および「Re:coryl」キットを活用した体験プログラムを提供。
- 岸和田中学校では、本事業の活動を知っていただいたことにより探究課題のテーマにアップサイクルが選定され、オンラインミーティングを通じて情報共有を実施。
(5) 他団体との交流・連携
- FabCafeKyoto主催のイベントに参加。当団体の活動を紹介し、スタートアップを目指す団体や既に起業した団体から多様な事例を学ぶ機会を得る。
- 京野菜の発信を行っている「ほほえみまーけっと」と共同で、アクリル板を使用したイベント用看板を制作。
- 西陣織の廃材を使用した作品制作やワークショップを行っている「輪廻Activate」と共同でワークショップイベントを企画中。
- 西陣で伝統産業の職人が作る素材を使用しハンドメイド商品や教育機関での授業を行っている「sampai」に、中学校でのワークショップに使用するアクリルを提供。
- 京都の隠れた魅力を発信している「Michibata KYOTO」と共同で、京都駅にてイベントを企画中。
- 「かめおか共創支援プロジェクト~ビジネスチャレンジプログラム~」に参加。プロジェクトの一環で開催されるイベントのノベルティとしてアクリルストラップを制作中。
(4)事業の成果
- 昨年度開発した「Re:coryl」をキット版として改良し、累計200名以上がワークショップに参加。5月に調査したアンケートの結果では81%が「満足」あるいは「非常に満足」と回答。参加者からも「とても画期的で面白い商品」「実際に自分の手で作ることができるのが嬉しい」と直接言っていただける場面もあった。
- 龍谷大学校友会イベントや龍谷祭などを通して、学内関係者を含む300名以上に本事業やアップサイクルの意義について知ってもらうことができた。学生からは特に「Re:coryl」の独自性や新規性が高く評価され、SNSなどを通じて話題が広がる場面もあった。校友会の関係者からは「母校が革新的なアイデアを使った取り組みを行っていることを誇りに感じる」と好意的な意見をいただいた。
- 高校2校でアップサイクル体験プログラムを実施。生徒約10名が実際に資源を回収し、アップサイクルを行う工程を自ら体験した。岐阜聖徳学園の「夏季学校in授業改革フェスタ」で行った出前授業では中学生の生徒と保護者の約60名が「Re:coryl」キットを使ったワークショップに参加。アンケートでは参加者のうち73%が満足度「10」と回答し高い評価を得た。
(5)今後の課題と展望
今回の事業での課題は、ターゲット層を明確に絞り込めていなかった点である。できるだけ多くの人に広めたいという気持ちから、幅広い層を対象に活動を展開したが、それぞれの層に適したアプローチ方法やポイントが十分に整理されていなかった。その結果、活動を通して伝わるメッセージのインパクトが広く浅くなり、特定の層に目立って響くことなく、活動全体の効果が薄れたように感じる。
今後は、プロジェクト毎にターゲット層を具体的に設定し、それぞれに適したアプローチを実施することを目指す。例えば、子ども向けには分かりやすいかつ楽しく体験できるもの、学生向けには普段の学びから発展して社会問題を考えられるものを提供する。また企業と連携することで、例えば映画業界や航空業界といったさまざまなジャンルに特化した商品を共同開発し、新たな市場を開拓することを検討している。これにより、アップサイクル商品の可能性をさらに広げるとともに、多様な層に訴求していきたい。
(6)事業実施を通じて見出された特長
- ポイント1「体験型プログラムの提供」
- ポイント2「イベントへの定期的な出店」
- ポイント3「実際の場における学びを次に活かす」
(7)メディア掲載
2024/10/10 『本願寺新報』
「隔てる板をつなぐモノへ」 岐阜聖徳学園の高校生、龍谷大生に学びアップサイクル体験
活動団体情報
代表者
森 彩花
連絡先
REC事務部(京都)