~今と昔を遊びでつなぐ~ いとをかし、深草アーカイブプロジェクト(2022年度龍谷チャレンジ採択事業)

(1)事業の概要

本プロジェクトでは、深草小学校と深草アーカイブ実行委員会と連携し、深草地域の小学生を対象に地域の歴史や文化を知ってもらうための地域学習教材の作成を行った。2022年、伏見深草地域の前身である旧深草町が誕生して100年になるのを記念し、デジタルアーカイブである、「未来へ紡ぐ深草の記憶」が公開された。本プロジェクトでは、アーカイブの古写真を活用した、「深草まちあるきすごろく」を作成し、小学生の地域関心のきっかけづくりの機会を構築することができた。

(2)事業実施に至る経緯と背景

旧深草町誕生100周年を記念し、2022年3月に深草地域の古写真や動画、絵はがき等を収録したデジタルアーカイブである、「未来へ紡ぐ深草の記憶」が公開された。ただ、現状、深草では若い世代への地域の歴史や文化の継承が上手くいっているとは言い難く、このままだと地域のアイデンティティの喪失の恐れもある。そのため、「いとをかし、深草アーカイブプロジェクト」を立ち上げ、アーカイブを活用した地域学習コンテンツの作成を行うことで状況の改善を図った。

(3)事業実施項目

  1. 深草小学校6学年を対象にした「深小まちあるき」への参加協力
    2022年9月5日・12日・15日の3日間、深草小学校の6年生を対象とした「総合的な学習の時間」にPJメンバーが参加し、協力を行った。授業内容は、「深草のいいね!ポイントを探してみよう」というもので、小学生が主体的に深草地域でのまちあるきのルートを考え、実際に歩くことで、深草の魅力を見つけ出していった。PJメンバーは小学生に対してまちあるきのコツやこれまで蓄えた深草地域の知識を伝え、まちあるきの際は安全に注意しつつ、引率を行った。
    この授業連携により、PJメンバーと小学校の関係を深めることができたほか、学生双方にとって深草に関する知見を広げることができ、貴重な機会となった。
  2. 「すごろくづくりイベント」の実施
    本プロジェクトでは、発足時から、地域に主体的に関心を持ってもらうために「遊び」と「地域学習」を上手くかけ合わせたコンテンツの作成を目指していた。そこで、雨天時、学校での休み時間等である程度ゲーム性を持って遊ぶことができる「すごろく」に注目し、作成に着手した。
    作成にあたり、小学生の視点もすごろくに盛り込みたいとの思いから2022年10月26日・31日の2日間、小学校の放課後の時間を活用し、深草小学校6年生を対象とした「すごろくづくりイベント」を実施し、合計で60名ほどの小学生に参加してもらった。イベントでは、実際の深草の地形図を当てはめた簡易的なワークシートを用意し、小学生には深草に関する事象とそれに沿ったマス目の内容を考えてもらい、付箋でシートに貼ってもらった。また、イベント終盤には簡単な形ではあるが、作成したシートですごろく遊びをしてもらう時間も用意した。
    イベントを通して小学生には「その場所に何がある(あった)か?」をマス目の考案を通して考えてもらうことで、楽しみながら地域を振り返ってもらうことができた。また、「船場があった!疏水を船で下って★(印のところまで)ワープ!」など小学生ならではの斬新なマス目のアイデアを知ることができ、すごろく作成の参考にすることができた。
  3. 「深草まちあるきすごろく」の作成
    「深小まちあるき」や「すごろくづくりイベント」の成果を踏まえ、プロジェクトでは「深草まちあるきすごろく」を作成した。本すごろくの特徴としては実際の深草地域を舞台としたすごろくになっている点が挙げられる。すごろくのルートは深草地域の街道(師団街道や伏見街道など)に沿って作成し、京阪本線や鴨川運河、名神高速道路など方向や位置が分かりやすいものなども盤面上に表記した。また、マス目は「アーカイブマス」「お宝マス」「小学生考案マス」の3種類を用意することで複雑なゲーム性を実現した。「アーカイブマス」は地域のデジタルアーカイブである「未来へ紡ぐ深草の記憶」から実際にマス目付近で過去に撮影したと思われる古写真を使用しており、マス目に止まった際にはマス目の古写真に関するクイズに答えなければならない。「お宝マス」はすごろくのルート上に定期的に配置をし、マス目に止まることで深草地域の“伝統工芸品”としてゲームを有利に進める効果が書いたアイテムを獲得することができる。「小学生考案マス」は前述した「すごろくづくりイベント」で小学生が出してくれたマス目案から印象的であったものをPJメンバーで選び、表記をした。
    順位はポイント制による決定とし、最終地点への到着順位はもちろん、クイズの正誤、お宝カードの所持数等による総合的なポイント数によって順位が決まるようになっている。このことにより、ただ単に早くゴールに着くことを目標とせず、クイズやお宝などゲームの中身に関心を持ちながら遊んでもらえるようにした。
    2022年12月にはアーカイブ実行委員会のメンバーにも試作段階のすごろくを見ていただき、より地域性の反映された古写真の存在や、新たなクイズ案など多くのアドバイスをいただくことができた。こうして、最終的に2023年2月に10セットのすごろくを作成した。
  4. 「すごろく実践イベント」の実施
    完成したすごろくを活用し、2023年2月21日・24日の2日間、深草小学校6年生を対象に「総合的な学習の時間」を利用した「すごろく実践イベント」を実施した。イベントを通して小学生の「まちあるきすごろく」への反応は非常に良く、特にお宝の存在やポイント制による順位の決定などに好意的なコメントが多く寄せられた。また、地域学習の側面からは地域アーカイブの古写真を使用したクイズによって、現在のマス目付近の状況を推察する様子や実際に撮影場所付近に足を運びたいといった発言などが確認され、地域の新たな魅力に気づき、関心を持ってもらえるような様子が見られた。
    このことにより、「深草まちあるきすごろく」は地域関心の入口として一定の効果があったのではないか、と考える。完成した「深草まちあるきすごろく」は3月中旬に深草小学校に寄贈した。

(4)事業の成果

  • 小学生に対してはアーカイブ写真を活用した「深草まちあるきすごろく」を完成させることで、新たな発見や地域関心を呼び込むことができた。
  • 学校の先生に対しては、仕事の兼ね合いからなかなか地域について理解を深める時間が少なく、授業計画を立てづらいところを地域学習教材の提供によって補助することができた。
  • アーカイブ実行委員会に対しては、若い世代に地域の歴史や文化の継承を行っていくためにデジタルアーカイブを利用した新たな活用方法を提示することができた。

(5)課題と今後の展望

今回の事業での課題は、地域の歴史や文化の継承プロセスを完全には確立できていない点が挙げられる。今回プロジェクトで行った事業はあくまで地域関心の「入口づくり」となっており、事業後も継続的に地域の学生に対して地域学習のアプローチをしないとただ単に「すごろく遊びが楽しかった」で終わってしまう恐れがある。
今後は、一層地域の小学校や地域団体と連携を強化し、「入口」に入ってきてくれた若者をさらに刺激できるような地域コンテンツや学習パッケージを作成していく必要がある。今回のプロジェクトは初めての取り組みであったが、新たな連携が生まれ、地域学習に対するノウハウが蓄積している状態であるため、来年度以降もプロジェクトを継続できればより効果的な仕組みを創り出せるのではないか、と考えている。
最終的には、小さいころから継続的に地域に関心を持ってもらうことで、深草地域のアイデンティティや課題を認識し、地域の学生自らが主体的に地域に対してアクションを起こす「まちづくりの仕掛け人」を生み出すことが私たちの理想像である。

(6)事業実施を通じて見出された特長

ポイント1「地域の歴史や文化を若い世代に継承したい際はただ単に伝えるのではなく、現代の若者が興味を持つ形で伝えることが重要である。」
ポイント2「地域で新たなコンテンツを作成する際は作成段階から地域住民に関わってもらい、協働作業によって“一緒に創る”経験を増やすことでさらに主体性をもって取り組んでもらえることが期待できる。」
ポイント3「小学生の関心は様々なきっかけで直ぐに別の方向へ変化してしまうが、むやみに軌道を修正しようとせず、考え方に対して肯定を続けていれば結果的に関係性の構築につながり、プロジェクトの成功につながる。」

活動団体情報

代表者
いとをかし、深草アーカイブプロジェクト
篠原 優太

連絡先
REC事務部(京都)

主な連携メンバー
深草アーカイブ実行委員会、深草小学校、砂川小学校

活動開始時期
2022年4月

主な活動地域
京都市伏見区深草小、砂川小学区、およびその周辺地区

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