(1)事業の概要
本事業は、仏教や浄土真宗の教えを学生に身近に感じてもらうことを目的として、対話型カードゲームを制作・実施したものである。学生主導でゲームの企画・開発を行い、学内サークルや宗教局と連携しながらイベントやSNSを通じて普及活動を行った。また、SDGsの観点から紙媒体を減らし、Instagramでの情報発信やフォロワー獲得に取り組むなど、現代的なアプローチで宗教理解を促進した。今後は大会開催や販売も視野に入れ、さらなる展開を目指している。
(2)事業実施に至る経緯と背景
経営学部に入学し、大学1年次に必修科目である仏教の授業を受講したが、当初は関心が薄く、内容も難しく感じていた。また、大学の建学の精神が「浄土真宗の精神」であると説明されても、その意義や価値を実感することはできなかった。この経験から、龍谷大学の学生にとって浄土真宗はどの程度理解されているのか疑問を抱くようになった。
大学生活を送る中で、私はしばしば煩悩に悩まされた。やりたいことが次々と湧き上がり挑戦していると、授業についていけなくなり単位を落として落ち込んだ。ゼミやサークルの活動を途中で辞めたこともある。さらに大学受験時の挫折も引きずっており、自分の弱さを痛感する日々が続いていた。
そうした中で、改めて浄土真宗について学び直そうと考え、調べ始めた。その過程で、親鸞聖人が煩悩を断ち切ることはできず、むしろそのままの姿で阿弥陀仏に身を委ね、阿弥陀仏の願いによって救われるという教えに出会った。この思想は、自己中心的に世界を見ていた自身の心に深く響いた。生かされていることへの感謝や、自分ではどうにもならない弱さを受け入れることの大切さに気づき、いくばくか心の安らぎを得ることができた。
この体験を通じて、「ご縁あって龍谷大学に入学した学生には、親鸞聖人の思想をもっと分かりやすく、身近に感じられる形で伝えられないか」という思いが芽生えた。そこで、学生同士が交流しながら楽しく学べる方法として、カードゲームの活用を発案した。ゲームを通じて自然な会話が生まれ、遊びながら浄土真宗、あるいは仏教の世界観に触れられる仕組みがあれば、多くの学生に関心を持ってもらえると考えた。スマートフォンの普及により、同じ空間にいながら互いに画面に集中し、会話が生まれない光景をよく目にする。こうした状況の中で、リアルな場で心が触れ合う機会を提供したいという思いも強まった。
TREP PITCHの機会をいただき、本事業として活動を進めることとなった。本事業では、浄土真宗の教えを学生にとって「難しい宗教の話」ではなく、「日常の中で共感できる考え方」として伝えることを目指し、実施に至った。
(3)事業実施項目
カードゲームの作成
本カードゲームの制作にあたり、ChatGPTを活用して煩悩をテーマにしたセリフやイラストを作成した。
その後、政策学部の並木先生よりご紹介いただいた、カードゲーム制作の実績を持つ一般社団法人アソボロジー様に助言をいただき、テストプレイを実施することでゲームの仕組みを改善した。
また、説明書に記載の仏教に関する内容については、専門に研究されている先生に助言をいただいた。
さらに、創業支援ブースでのカフェ型相談会の機会を通じて、龍谷大学生と繰り返しテストプレイを行い、RECフェローの有井さんとセリフや質問内容の微調整を重ねた。
最終的には、カードゲームデザイナーと印刷会社の製作を発注し、カードの印刷および説明書を製作し、計10セットを完成させた。プレイマットは瀬田キャンパスsteamコモンズで製作した。
龍谷祭までの、カードゲーム認知拡大
カードゲーム専用のInstagramアカウントを開設し、宗教局や自身が所属していたESSサークルのメンバーが実際にプレイしている様子を撮影・編集した動画を、これまでに計10件投稿した。また、瀬田祭では「2択クイズで相方の予想は当てられるか?」といった企画を通じて、相互理解の奥深さや対面コミュニケーションの大切さを伝える動画を発信した。
さらに、龍谷祭に向けては、本来2日間にわたりビラ配りを実施する予定であったが、SDGsの視点から紙媒体の配布を控え、代わりにInstagramのフォローを直接お願いする方法に切り替えた。イベント期間中に地道な声かけを続けた結果、カードゲームの認知向上とともにフォロワー数は約50名を獲得した。
龍谷祭展示企画の開催
11月1日、2日の2日間でカードゲームの体験会を開催した。大学生を中心にお子様から高齢の方まで、合計120人以上の方に体験していただいた。そのうち92名の方にアンケートを記入していただき、カードゲームの効果を確認することができた。
カードゲームの3キャンパスへの設置
2025年11月4日~2026年1月16日において、深草キャンパス、瀬田キャンパス、大宮キャンパスに、合計9セットのカードゲームを常設した。龍大生は昼休みなどに、手軽に遊んでいた。
(4)事業の成果
体験会の参加者に対して実施したアンケートの結果、以下のような成果が見られた。
まず、「仏教や浄土真宗の世界観に興味を持つことができましたか」という問いに対しては、39%が「そう思う」、50%が「とてもそう思う」と回答し、全体の89%が肯定的な反応を示した。
また、「新しく知った仏教の言葉があれば教えてください」という設問では、42名が「煩悩具足の凡夫」という用語を回答しており、ゲームを通じた仏教用語の学びが一定の効果を発揮したことが明らかになった。
さらに、「ゲームを通して、他のプレイヤーと楽しく会話ができましたか」という問いでは、87%が「とても楽しかった」と回答しており、対話型の学習機会として高い評価を得ている。「煩悩Maxカード」などを通じてお互いの内面を語り合う仕組みについても、「お互いのことを知ることができましたか」という問いに対して、53%が「とてもそう思う」、39%が「まぁまぁそう思う」と回答し、参加者同士の相互理解を深める土壌が醸成されたことが確認された。
また、「ゲームを通して自分を振り返る機会になったと思いますか」という問いに対しては、40%が「とてもそう思う」、41%が「そう思う」と回答し、自己内省のきっかけとしても有効であったことがうかがえる。
加えて、「他者の考え方を受け入れる大切さ(平等の心)を感じましたか」という設問では、51%が「とても感じた」、39%が「まぁまぁ感じた」と回答し、仏教的視点からの対話や価値観共有が、共感や多様性の理解につながったことが示唆された。
以上から、本企画は仏教や浄土真宗への関心を高めるだけでなく、参加者同士の相互理解や対話を促進し、内省や共感を大切にする場づくりにも寄与したと評価できる。
(5)今後の課題と展望
今回の事業での課題は、参加者層の拡大と継続的な関係構築の難しさにある。参加した学生からは概ね高い満足度が得られたものの、より多様な学部や学年へのアプローチが今後の課題として挙げられる。また、本企画はイベント形式での一過性の体験に留まりがちであり、今後はSNSの活用やさらなるイベントを通じて、継続的な関心喚起と学びの深化を図る必要がある。
さらに、一部の参加者からは「ゲームのルールが最初は理解しづらかった」「もう少し仏教用語の説明があるとよかった」といった意見も寄せられた。これらの声を踏まえ、ゲームの導入説明やサポート体制の強化を行うことで、初めて参加する学生にもよりスムーズに楽しめる環境を整えていくことが求められる。
今後は、本カードゲームのさらなる普及と活用を目指し、キャンパス内での大会開催を予定している。大会形式でのイベントを定期的に実施することで、単なる一過性の体験に留まらず、「遊びながら学ぶ」文化としての定着を図る。これにより、参加者同士の交流をより活発化させるとともに、仏教の教えに親しむ機会を広げていくことを狙いとしている。
現在作成したカードゲームについては、大学宗教局への寄付を予定している。今後は、宗教局が実施する学内宗教行事などで活用していただき、仏教や浄土真宗を身近に感じられる学びの機会の創出に寄与することを目指している。また、これまでの参加者から得られた好意的な反応および需要を踏まえ、カードゲームの販売展開も視野に入れている。これらの取り組みを通して、仏教・浄土真宗の教えを現代的な形で再発見し、広く人々の心に届けることを目指す考えである。
(6)事業実施を通じて見出された特長
1.ポイント1「仏教を現代的に再解釈した「対話型ツール」の活用」
仏教や浄土真宗の概念を、遊びながら気軽に体験できるカードゲームという形に変換したことで、宗教的テーマを若年層や未経験者にも抵抗なく共有することができた。このような「体験型コンテンツ」は、従来敬遠されがちなテーマを開くきっかけとして、他分野にも応用できる可能性がある。
2.ポイント2「SNS連動による「紙×デジタル」のハイブリッド発信」
SDGsの観点から紙配布を削減しつつ、インスタグラムを活用して情報発信や参加促進を行った点は、環境配慮と広報効果を両立する実践例である。特に若者との接点づくりにおいては、リアルイベントとSNSを組み合わせる広報戦略が、地域の取り組みにも効果的と考えられる。
3.ポイント3「個人によるAI・大学資源の活用でアイデアを形に」
本事業では、個人であっても生成AI(ChatGPT)を活用し、大学の補助金やデザイナーへの依頼、さらに創業支援ブースのフェローによるアドバイスといった外部資源を組み合わせることで、アイデアを実際の形にすることができた。
活動団体情報
代表者
林 泰誠
連絡先
価値創造推進部